運動・行動の階層的情報処理

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05267106
• 研究機関: 順天堂大学
• 研究代表者: 彦坂 興秀 順天堂大学, 医学部, 教授 (70120300)
• 研究分担者: 丹治 順 東北大学, 医学部, 教授 (10001885) ; 鈴木 良次 金沢工業大学, 工学部, 教授 (80013811) ; 久保田 競 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (30027479) ; 木村 實 大阪大学, 健康体育部, 教授 (40118451) ; 笠井 健 大阪大学, 健康体育部, 教授 (30029459)
• キーワード: 大脳基底核 / 小脳 / 手続き-運動記憶 / 動機づけ / 感覚運動情報の統合 / 大脳皮質準備電位 / 眼球運動

研究概要

昨年度(初年度)は、優れた行動課題が実験グループによって開発された。今年度は、それらの行動課題を使った実験の結果、運動の発現、学習による修得、運動に必要な空間情報の生理学的知見が得られ、一方でその知見と密接に結びついたニューロンモデルが提唱された。個々の具体的な実験結果は以下の通りである。随意的筋弛緩運動の発現に前頭前野内側部が関与している(柴崎)。子ザルの遅延反応課題遂行に、前頭連合野(46野)に注入されたGABAaとGABAb作動薬が異なる作用をもつ(久保田)。黒質のドーパミンニューロンは、行動の学習の初期に「動機づけ」に重要な役割を果たす一方で、学習によって修得した行動を「表現する」ことにも重要な働きをしている(木村)。大脳基底核の異なる領域が、手続き-運動記憶の形成とその読みだしの過程に関与する(彦坂)。大脳LS皮質が輻輳運動制御の学習にも関与する(坂東)。3つの小脳核のいずれにも、遅い眼球運動と速いサッケード運動の制御に関係する領域がある(永尾)。垂直および回旋眼球運動の発現のために脳幹と小脳が協調して働く(福島)。小脳、頭頂連合野、運動野は相互に密接に結合している(篠田)。小脳プルキンエ細胞における抑制性シナプスの長期増強の分子機構の解析(狩野)。小脳核から視床VL核への投射と大脳基底核脚内核から視床VA核への投射を調べた(中村泰尚)。空間位置情報の内部表現は、いくつかの感覚運動系に共通に存在するのか、あるいは独立に存在するのかを調べた(笠井)。追従眼球運動中のサル小脳腹側傍片葉のプルキンエ細胞の発火頻度を逆ダイナミクス表現で再構成できる(川人)。新しい自律分散型運動制御システムを構成し、さまざまな状況下でも安定的に歩行パタンが生成できる(矢野)。「ニューロンはある適度な入出力レベルを好む」という仮説を提唱した(岡部)。視覚情報を統合し、運動制御に必要な情報を生成する機構を調べるために、行動実験とモデル実験を行った(鈴木)。モデル的な神経回路網に埋め込んだ記憶情報をカオスによって操作し、脳の高次機能が実現できるかどうかを調べた(奈良)。遅延パタン照合タスクの神経回路網モデルを構成した(吉沢)。概念の文脈依存性を説明するためのモデルを、海馬-新皮質系の相互関係にもとづいて構成した(大森)。ストループの色-語干渉を説明するためのモデルを、感覚性言語野と運動性言語野の関係にもとづいて構成した(中村清彦)。

研究成果

• [文献書誌] Aizawa H,Tanji J: "Corticocortical and thalamocortical responses of neurons in the monkey primary motor cortex and their relation to a trained motor task." J.Neurophysiol.71. 550-560 (1994)
• [文献書誌] Aosaki T,Graybiel AM,Kimura M: "Effect of the nigrostriatal dopamine system on acquired neural responses in the striatum of behaving monkeys." Science. 265. 412-415 (1994)
• [文献書誌] Kurata K,Hoffman DS: "Differential effects of muscimol microinjection into dorsal and ventral aspects of the premotor cortex of mokeys." J.Neurophysiol.71. 1151-1164 (1994)
• [文献書誌] Shidara M,Kawano K,Gomi H,Kawato M: "Inverse-dynamics encoding of eye movement by Purkinje cells in the cerebellum." Nature. 365. 50-52 (1993)
• [文献書誌] Tanji J,Shima K: "Role for supplementary motor area cell in planning several movements ahead." Nature. 371. 413-416 (1994)
• [文献書誌] Kato M,Miyashita N,Hikosaka O,Matsumura M,Usui S,Kori A: "Eye movements in monkeys with local dopamine depletion in the caudate nucleus.I.Deficits in spontaneous saccades." J.Neurosci.15. 912-927 (1995)