研究概要 |
海馬の長期増強現象の誘導に必要とされている細胞内へのカルシウムイオンの流入は、どのような経路を介して起こるのであろうか。これまでは、グルタミン酸受容体のサブタイプの一つであるNMDA受容体からの流入がほとんどであると考えられていたが、本研究の結果によればNMDA受容体からよりも、むしろ電位依存性のカルシウムチャネルからの流入が主であるという結論を得た。細胞内カルシウムは、カルシウム蛍光指示薬をCA1錐体細胞に注入し、紫外光で励起して得られる蛍光を冷却型CCDカメラで経時的に測定する。CA1の神経細胞に高頻度のシナプス入力を加えると活動電位が発生し、それに伴い細胞内のカルシウムが増大する。これをコントロールとして、NMDA受容体の拮抗薬であるAPVを投与しても高頻度によるカルシウム増大反応にほとんど変化は見られないが、電位依存性カルシウムチャネルブロッカーであるω-アガトキシン(P型チャネルブロッカー)の潅流により、細胞体、遠位樹状突起および基底樹状突起でコントロール群と比較し、それぞれ40±18%、34±9%、38±17%(n=6)の減少がみられた。 さらに、これらの薬物が高頻度刺激による長期増強現象の誘導にどのように関るかを細胞外電位記録を用いて調べた。NMDA受容体の拮抗薬であるAPVでは、完全に長期増強の誘導を阻止し、Herron等(1986)の報告とよく一致する。コントロール群での長期増強は、93±12%(n=8)であるのに対し、ω-アガトキシンでは31±14%(n=8)と有意な抑制効果が観察された。ω-アガトキシンは、低頻度のシナプス入力に何等影響を与えないことから、APV感受性の長期増強の形成に、電位依存性カルシウムチャネルが関与していると結論した。そして、長期増強形成に必要である細胞内カルシウム増大は、主にP型の電位依存性カルシウムチャネルからの流入であろうと推測した。しかし、電位依存性のカルシウムチャネルには、P型以外にL,T,N型の3つがあり、長期増強との関連について現在研究を進めている。
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