研究概要 |
身体の巧みな運動/行動は、筋骨格系・脊髄のインピーダンス可変機構、およびそれらを操る高度な内部制御機構に支えられている.そこでは、フィードバックを主体とするサーボ制御や適応制御の上位機構として、外部環境の特性やそれらとの相互作用を表現した内部モデルが制御機構に組み込まれている.随意運動のプログラミングと制御にとって、これらの内部モデルの形成とそれに基づくフィードフォワード制御機構が本質的な役割を果たしていると考えられる. 本年度は、両手協調動作における手先インピーダンス調節を取り上げた.ボールや箱のような物体を両手で操作する場合、物体の位置・姿勢制御とそれにかかる力(内力)の制御を同時に行う必要がある.特にボールのように変形する物体(ここでは、動的対象物と呼ぶ)の場合は、手先・関節・筋のインピーダンス設定と両上肢の冗長自由度拘束が重要な役割を果たす.基礎実験として、手首関節により剛体および動的対象物を左右に移動させる実験を行った(肘は台に固定).右へ60mm移動させた時の両手首屈筋・伸筋のEMGを測定した.剛体対象物に対しては、対象物を右に駆動するため右手伸筋、左手屈筋のみが活動するのに対して、動的対象物では,左右手首関節の屈筋・伸筋が同時に活動することが明らかになった.屈筋・伸筋の同時活動は対象物の駆動には寄与しない.これは被験者が手首関節の運動インピーダンスを意図的に大きくして制御していることを意味する.また、対象物の粘性が小さい場合は、同時活動の振幅レベルがさらに大きくなる.このことは被験者が対象物の動特性に応じて手首関節のインピーダンスを調節していることを意味する。この調節原理が筋の双線形モデルを組み込んだ協調制御モデルで説明できることを示した.
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