2頭のアカゲザルに、リーチング運動を使った2種類の遅延反応課題(遅延リーチング課題と遅延連続リーチング課題)を訓練した。遅延連続リーチング課題では、2ヶ所に視覚刺激が0.5秒づつ順次呈示された後3〜5秒の遅延期間に入り、遅延の終了後刺激の呈示順序と同じ順序で反応キーを押すと報酬が得られる。遅延リーチング課題では、1ヶ所に刺激が呈示され、遅延終了後その位置の反応キーを押すと報酬が得られる。サルが両課題を充分に学習した後、単一ニューロン活動の記録を行った。現在までに230個の単一ニューロン活動を前頭連合野の主溝とその周辺部から記録した。なかでも遅延期間中に生じるニューロン活動は、作業記憶の重要な要素である情報の能動的な保持機構を反映している。そこで、遅延期間活動を分析することにより、複数位置の同時作業記憶機構と、刺激の呈示順序が作業記憶に及ぼす影響を明らかにしようと考えた。その結果、手がかりとして呈示される視覚刺激が視野内のある位置に呈示されると遅延期間活動を生じる位置依存性ニューロン、視覚刺激がある位置の組み合わせで呈示されると遅延期間活動を生じる組み合わせ依存性ニューロン、呈示される2つの視覚刺激の相対的な位置関係に応じて遅延期間活動を生じる相対位置依存性ニューロンなどが見いだされた。また、位置依存性ニューロンや組み合わせ依存性ニューロンでは、多くが刺激の呈示順序にも依存した活動を示した。このように、前頭連合野の個々のニューロンには、比較的単純な情報を保持するものから、いくつかの情報が組み合わされた複雑な情報を保持するものまで、様々なものが存在することが明らかになった。今後、このようなニューロン活動の組み合わせにより、前頭連合野はどのようにして複数の刺激位置とその呈示順序を保持するのか、空間位置は前頭連合野内でどのように表現されているのかを考察する計画である。
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