研究概要 |
発達期の大脳皮質視覚野において興奮性シナプスが可塑的に変化することは良く知られている。最近、抑制性シナプスも可塑的に変化することを見いだし、本年度の研究では抑制性シナプス伝達の長期増強の特性をさらに解析した。生後20-30日のラット視覚野切片標本において、グルタミン酸受容体拮抗薬により興奮性シナプス伝達をブロックし、IV層の電気刺激によりV層細胞に引き起こされる単シナプス性抑制性シナプス後電位(IPSP)を細胞内記録した。このIPSPはGABA_A受容体性であった。IV層に50Hz,1秒間のテタヌス刺激を10秒間隔で10回加えて生じるIPSPの長期増強は海馬CAl領域の興奮性シナプス後電位(EPSP)の長期増強に類似した次の4つの性質を持っていた。1)長期増強はテタヌス刺激を加えた回路に特異的に起こる。2)繰り返しテタヌス刺激を加えると長期増強は飽和してそれ以上増大しなくなる。3)その発現には一定以上の強さのテタヌス刺激を加えなければならず、連合性を有する。4)弱いテタヌス刺激はしばしば短期増強を引き起こす。しかし、IPSPの長期増強には海馬CAlでのEPSPの長期増強と異なる性質も認められた。海馬CAlでのEPSPの長期増強の連合性がシナプス後細胞のNMDA受容体の膜電位依存性によるのに対して、IPSPの長期増強の発現はシナプス後細胞の膜電位に全く依存しなかった。また、CAlのEPSPに長期増強を引き起こすには数10Hzの高頻度刺激を加えなければならないが、IPSPの長期増強は数Hzから数10Hzにわたる広い範囲の周波数の刺激により引き起こすことができた。従って、抑制性シナプス伝達の長期増強は海馬CAlの興奮性シナプス伝達の長期増強にかなり類似した特性をもつが、興奮性シナプスの長期増強とはかなり異なる分子機構によるものと思われる。
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