研究概要 |
培養胃粘膜細胞におけるストレス蛋白質の誘導を詳細に検討した。熱ショック(43℃)では、HSP90と70が、過酸化水素処理ではHSP90,72,および60が、エタノール処理ではHSP110,90,72,および60が、diamide添加では、HSP90,72,および60が、それぞれ誘導されてくる事を確認した。昨年の研究において、この胃粘膜細胞における酸化ストレスの細胞内情報伝達機構として、蛋白質S-thiolationを解析し、その生理的意義について報告した(Am.J.Physiol.)。また、ヒト多形核白血球のS-thiolationについても明らかにして報告した(Arch.Biochem.Biophys.)。 胃粘膜細胞でのストレス蛋白質の誘導調節機構を調べる課程で、上記のストレスによるストレス蛋白質の誘導は、細胞内のグルタチオンを枯渇した細胞では全く認められず、このメカニズムとして、HSEのシス領域の合成オリゴヌクレオチドを用いたゲルシフトアッセイを行い、細胞内グルタチオンが、HSFの活性化に必要である事を明らかにした。最近、NF-κBやストレス蛋白質の誘導調節機構として、酸化還元レドックスによる転写因子の活性化機構が注目されている。この分子機構として、ロイシンジッパーのシステイン残基のS-thiolation/dethiolationによる修飾が関与する可能性が高く、この観点から、核内蛋白質のS-thiolationについても検討した。細胞質蛋白質に比べ、核内蛋白質のS-thiolationの方が強く引き起こされる事を確認した。このように、細胞内蛋白質のS-thiolationは、ストレスの細胞内情報伝達として働き、特定の蛋白質の生物活性を変化させ、細胞の代謝や機能を変化させるとともに、酸化ストレスにより誘導される遺伝子の転写を調節する可能性が強く示唆された。
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