高等植物の懸濁培養細胞を同調培養し、differential screeningによってS期に特異的に発現する遺伝子、cyc07を単離している。また、出芽酵母のゲノムにcyc07に相同な遺伝子が存在し、その機能が出芽酵母の細胞増殖に必須であることを既に明らかにしている。本研究の目的は、この進化上保存された遺伝子の機能、及び細胞周期特異的な遺伝子発現を指令するメカニズムを解明することである。本年度は主にcyc07タンパク質に対する抗体を用い、免疫学的な手法でこのタンパク質の特性について解析した。研究の成果といっては、1)cyc07タンパク質はニチニチソウ及びタバコの培養細胞において、増殖の盛んな細胞の核に局在していること、2)cyc07タンパク質は、M期には染色体上に存在せず、細胞質中に拡散していることを明らかにした。また、このタンパク質とDNAとの親和性について解析したところ、3)単離核をDNaseIで処理すると、cyc07タンパク質が核から溶出されること、4)DNAセルロースカラムに結合したcyc07タンパク質は、0.3MNaClで溶出されることが明らかになった。また、同調培養系を用いた解析からは、cyc07タンパク質自体は細胞周期を通じて存在しているが、その合成はmRNAの蓄積パターンと同様に細胞周期に存在して変動していることが判明した。これらの結果から、cyc07タンパク質は増殖している細胞の核に特異的に存在し、クロマチンに結合しているものと考えられるが、凝縮したM期染色体には結合活性を持たないものと思われる。この様なタンパク質の細胞周期の進行に伴う局在性の変化、またタンパク質合成の細胞周期依存性がどのように、このタンパク質の機能に関わっているのかについては今後の課題として残される。 また、このcyc07遺伝子のプロモーター領域を単離し、その機能について解析したところ、1)転写開始点より589bpまでのDNA断片が、形質転換植物体において分裂組織特異的発現を指令すること、2)形質転換したタバコ培養細胞を同調培養することにより、上流域2.1kbのDNA断片はS期特異的転写を指令するが、589bpまでの断片は細胞周期を通じてコンスタントなレベルの転写を指令することから、細胞周期特異的な発現は589bpよりも上流の配列によって制御されていることが明らかになった。
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