クラミドモナスの細胞周期において体細胞分裂の完了後に起る娘細胞放出の制御機構について研究を進めている。本年度は、1)娘細胞放出(ハッチ)時に分泌される母細胞壁溶解プロテアーゼ(VLE)とそのプロ型酵素の分子性状、2)このプロテアーゼに対するインヒビターの同定と細胞周期における動向、3)細胞分裂を完了した娘細胞がハッチするときに関与するシグナル系列、について研究した。 1)精製したVLEの諸性質を検討し、セリン系プロテアーゼの一種であることを明らかにした。また、イムノブロット実験より、細胞内プロ型酵素(proVLE)を検出し、分子量はVLE(約12万)に比べて約5千程度大きいこと、M期において分裂細胞内部に蓄積されることがわかった。 2)いっぽう、VLEに対する細胞内インヒビター(VLEl)がM期にのみ存在することがわかった。このインヒビターの完全精製にはまだ成功していないが、部分精製の結果からは、VLElは分子量4-5万のタンパク質で酵素と1対1の複合体を形成することがわかった。さらに、proVLEと違って、M期の細胞内部にはなく、細胞と母細胞壁との間隙に存在することが示唆され、このことから、このインヒビターは、M期の進行中に事故により母細胞壁が破れて娘細胞がハッチしてしまわないようにガード役を果たしているのではないかと推定された。 3)ハッチ直前の分裂細胞は、培養液のpHを8-9付近にするとハッチが促進され、pH6では逆に遅れを生じた。pH6の条件下でもNH_4^+(base loading)やCa^<++>、Ca^<++>とA23187の添加によって促進された。いっぽう、EGTA、EDTA、ジルチアゼム、W-7はハッチを阻害した。これらの結果は、ハッチのシグナルには細胞内pHの上昇とカルシウムの上昇が関与していることを示唆している。
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