癌抑制RB蛋白質のG1/S期におけるリン酸化と、RB蛋白質と結合する未知の蛋白質についての研究を進めた。 1)cdk2/cdc2キナーゼに特異的な低分子阻害剤として、萬有製薬との共同研究で世界で初めて発見したブチロラクトンIが、in vivoでは細胞をG1/Sに停止させ、その際、RB蛋白質のリン酸化も阻害されていることを見い出した。1993年の暮には、もう一つの重要な癌抑制蛋白質であるp53の生理機能が米国のグループによって解明された。結局、p53はcdkファミリーキナーゼに結合して阻害する蛋白質Waf1/Cip1の合成を誘導して、細胞をG1/S期に停止させることがわかったが、我々のブチロラクトンIは、Waf1/Cip1と同様の活性をもつものであり、癌治療薬としての可能性が大いに示唆される。15EA03:2)昨年度に開発したリン酸化ペプチド化学合成法を用いて、RB蛋白質上のリン酸化部位のうちの2カ所の部位に相当するリン酸化ペプチドを合成し、それを抗原として抗体を作製した。その一つの抗体はリン酸化型RB蛋白質とのみ反応し、かつ、フォスフォセリンを含む周辺のアミノ酸配列を特異的に認識していることを確認した。こうした、それぞれのリン酸化部位に特異的な抗体を用いれば、細胞周期におけるそれぞれの部位のリン酸化の時期、および、そのリン酸化を行うRBキナーゼの成分種の詳細な解析を行えるはずである。 3)癌抑制RB蛋白質に結合する新しい蛋白質としてクローニングしたRBQ-3のcDNAの全一次構造を決めた。そして、コンピューター・サーチの結果、発芽酵母の一本鎖DNA結合蛋白質の遺伝子RPA-1のすぐ3〓に存在する機能未知の蛋白質と有意な相同性を持つことを見い出した。RBQ-3遺伝子はヒト染色体上の1q32にマップされた。 4)核マトリックス蛋白質であるラミンAがin vitroでRB蛋白質と結合することを見いだし出し、さらに、その結合に使われるラミンA蛋白質上の領域を同定した。この発見はRB蛋白質の研究に新たな方向を開く可能性を秘めている。
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