研究概要 |
糖脂質がニューロンの膜形成を制御する場合、少なくとも2つの可能性が考えられる。ひとつは生合成された糖脂質が特定のタンパク質の輸送を制御する可能性であり、もうひとつは細胞間相互作用などを介して細胞外から糖脂質が分化を制御する場合である。前者の可能性については最近腎臓上皮由来の培養細胞であるMDCK細胞を用いて、先端面のタンパク質であるGPIアンカーされたタンパク質と糖脂質とがゴルジ体でドメインを形成していることが示唆された。上皮細胞のもうひとつの形質膜ドメインである側底面のタンパク質はこのようなドメインを形成しない。培養ニューロンを用いた最近の実験結果は、ニューロンの軸索と上皮細胞の先端ドメイン、またニューロンの樹状突起と上皮細胞の側底ドメインとは類似した膜の構成を持っていることを示しており、糖脂質が軸索形成に重要な役割を果たしている可能性が考えられる。我々はMDCK細胞の実験結果を重視し、先端タンパク質としてインフルエンザウイルスのHAタンパク質をマーカーに用い、MDCK細胞でHAタンパク質がゴルジ体に輸送された時初めて界面活性剤に不溶性となるような界面活性剤のスクリーニングを行った。その結果CHAPS(3-[(3-コ-ルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸)が非常に効果的であることがわかった。CHAPS不溶性画分にはセレブロシドとGM3がきわめて高濃度濃縮されており、これらの糖脂質が上皮細胞やニューロンなどの極性細胞の膜形成に重要であることが示唆された(Biochemistry32,6365(1993))。また我々はラット胎仔海馬ニューロンの初代培養細胞での蛍光標識セラミドを用いた糖脂質の輸送機構の解析を開始している。
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