イネのwx遺伝子座は胚乳中のアミロースの合成を支配している。植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)は種子の成熟にとって重要な働きをしていると考えられている。本研究は、ABAによるwx座の発現制御の解明を目的として行った。登熟期の種子をさまざまな生理的処理をし、wx座の転写産物の変動を解析した。その結果、10〓の濃度のABA存在下で対照(水のみ)よりも強いwx座の発現が見られ、10〓では対照とほとんど差が認められなかった。ABAによるwx座の発現への影響はその処理が長期間(2〜3日間)にわたるほど効果が強かった。種子の登熟過程の各時期でABAの影響を調べたところ、時期特異的な効果はなくいずれの登熟期においてもABAによるわずかな活性化が認められた。wx座の発現が弱低温によって活性化される際にABAが関与しているかどうかを検討した。wx座の発現の増大はABAの有無に関わらず同程度認められたため、弱低温反応にには ABAは関与していないことが示唆された。ABAの合成阻害剤と言われているfluridoneやclomazoneを外液に加えその効果を調べたが、wx座の発現にはほとんど影響は無かった。本研究では、ABAはwx座の発現に影響を与えることは認められたものの、必らずしも必須ではないことが示唆された。 私たちはwx座が種子および花粉で特異的に発現することを示してきた。この組織特異性をさら免疫組織化学的に詳細に形態レベルで解析した結果、遺伝子産物(Wxタンパク質)は種子の胚乳中のみに見られ、デンプン粒に局在することが判明した。これは、Wxタンパク質がデンプン粒に強固に結合しているという生化学的知見と一致する。
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