植物の細胞壁はリグニンがセルロース、ヘミセルロース等の多糖類に沈着することによって強化されるが、ホウ素欠乏などの栄養ストレスによっては生合成が阻害され、軟弱な細胞となることが知られている。本研究ではリグニン等のフェニルプロパノイド系化合物の生合成の制御を明らかにし、その経路の鍵酵素であるフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)を遺伝生化学的に強化した植物の育成を最終的な目的とした。本研究のモデル植物としてタバコ(Nicotiana plumbaginifolia)とトウガラシ(Capsicum frutescens)をとりあげた。これらの植物に外来のPAL遺伝子を土壌細菌Agrobacterium tumefaciensとA.rhizogenesを経由して導入し、フェニルプロパノイド生合成系の強化された植物細胞の育成を試みた。PAL遺伝子にはK.Hahlbrock教授から分譲をうけたパセリ由来のcDNAを用い、これにCaMV35Sプロモーターを結合してバイナリーベクターpBl121のキメラプラスミドとして遺伝子を導入した。上記モデル植物の細胞を用いて栄養ストレスに対する影響を検討し、PAL遺伝子を導入した形質転換体ではリグニンに至るフェニルプロパノイド生合成系中間体の生成量を調べ、栄養ストレスの影響を検討する材料を作成した。タバコのカルス細胞はホウ素欠乏により細胞壁が薄くなって生育が阻害され、本実験でPAL遺伝子導入によって細胞壁の強化された植物細胞を育成する際のモデル植物として使用できることが分かった。形質転換した、カルス、再分化植物体、毛状根はカナマイシン耐性マーカー等によって選抜した。得られた形質転換体を用いて順次フェニルプロパノイド系化合物の生成の変化を検討したところ、トウガラシ毛状根、タバコのカルスにおいてフェニルプロパノイドの生合成系の代謝産物の量に変化が見られ、リグニン化した毛状根あるいは固いカルスが得られ、リグニン等の強化された栄養ストレス耐性の植物育成への足掛りができた。
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