運動性微生物は、環境の刺激を感知して行動的にそれに対応する。この行動的応答は非常に迅速であるので、なんらかの方法で微生物の行動の変化を計測できれば極めて短時間に毒性診断ができるのではないかとの発想のもとに本研究を行っている。本年度は運動性微生物を行動測定型毒性センサーとして利用するのに不可欠な行動解析システムの開発に取り組みそれに成功した。 行動解析システムは倒立位相差顕微鏡・CCDカメラ・VTR・画像処理装置・パソコンより構成される。運動性微生物(本年度はモデル微生物としてPseudomonas aeruginosaを用いた)をHEPS緩衝液(10mM、pH7.0)に懸濁した菌体懸濁液と検定物質を含んだ緩衝液を混合し即座に顕微鏡観察を行う。顕微鏡画像はCCDカメラを通じてVTRに記録する。後に、記録した画像を再生し、画像処理装置に取り込み、C言語で独自に開発した行動解析ソフトによりP.aeruginosaの行動を解析した。まず、個々の細胞の運動速度を計測してその平均値で毒性の評価を試み、確かに毒性物質の濃度と運動速度に高い相関関係があることが見いだされた。しかし、速度の計測には時間がかかるためにこの方法を断念した。次に、運動停止細胞の割合を計測し、運動停止率で毒性の評価を行った。様々な濃度の毒性物質(重金属や芳香族化合物)と菌体を混合し、2分後の運動停止率を計測したところ、運動停止率の値と毒性物質濃度との間には高い相関があることがわかった。さらに増殖阻害試験を行い、50%の阻害を引き起こす毒性物質濃度を比較したところ、運動阻害の方が3-10倍ほど感度がよいことが示された。これらのことから、我々の開発した行動解析システムを用い運動停止率を計測することにより、短時間に(増殖阻害試験では1晩必要菜のに対し本方法では数分)感度よく毒性の評価が行えることが示唆された。
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