研究課題
当年度は、前年度に引き続き、彫刻、絵画、書跡、工芸、考古の各ジャンルとも既刊文献のなかに収録・紹介される請来系文物の情報を可能なかぎり博捜してカード化に努める一方、すでに収集した写真資料についてそのデータを整理し、カード化をはかった。こうして蓄積した情報は、パソコンで整理し一覧表化しているが、すでに7千件を越えるデータが蓄積でき、各種の方法で検索が可能である。また、社寺所蔵の請来系文物についても、基礎的調査を実施し、個別的な調書制作及び研究を続けている。以下、テーマ別に問題点をあげる。上代の奈良におけるきわめて重要なコレクションである正倉院宝物をはじめ奈良諸寺所蔵の文化財、および法隆寺献納宝物(東京国立博物館所蔵)中の飛鳥・奈良時代の資料にも重点をおき、その受容の様相を考察し、あわせて、個別的な美術史上の意義についても研究を深めた。また、近年着目されるようになった古墳出土品関係資料等、古墳時代における考古学的成果に注目し、考古学と仏教美術史との接点について新たな観点で考察をすすめた。さらに飛鳥・奈良時代の初期請来系文物について再検討し、奈良諸寺に伝来する資料について調査研究し、正倉院宝物についても文献的な考察を加えるなど、各分野にわたって、個別的・テーマ的な問題について考察を深めた。平安時代では入唐八家の請来系文物について、請来目録等の記録と現存作品の比定に努め、その関係文物について主として既刊文献を中心として、調査・考察した。鎌倉時代では奈良復興の事業とそこに反映している請来系文物の関係、藤末鎌初の仏教各派の入宋留学僧と請来系文物、禅宗と新たな宋代文化の移入等、多彩なテーマに着目して調査研究を深めている。