米の部分自由化が決定したウルグライラウンド決着は、東北農民に極めて大きい危機意識をもたらしている。のみならず、長い間大きな課題であった食料管理法も改正されるなど、本研究中に東北農業を揺さぶる問題は矢継ぎ早に襲ってきた。さらに冷害、集中豪雨などが農民を苦しめた。稲作に大きく依存してきた東北農業は、米価の国際価格との競争に否応なく巻き込まれて行くことが決定的になった事で、コストの低下あるいは品質の差別化によって生き延びるかの選択を迫られる事になった。コスト低下は「新政策」が目標とする個別経営体、経営法人では経営規模拡大とリンクすると考えられている。品質の問題はこのことと矛盾しないのかどうかは判断しにくいが、コスト低下には、現在の技術レベルでは大量の農薬に依存していかざるを得ない大規模化による稲作は、健康問題に直結するとなれば現今の環境問題への国民的関心から考えれば歓迎されないであろうし、差別化による競争には勝てないと考えている農民も多い。また、山間地では規模拡大は実現可能な課題ではないことが本研究ですでに明白となっており、国レベルの政策とはやや距離を置きながら地域農業を確立し、村を存続しようとしている地域では、本来個々の農家に認められている特別栽培米に農協単位で取り組みこれに行政も支援するという事例も出てきている。しかし山間地で長い間畑作技術の改良に努め特産地を形成してきた地域でも、海外からの輸入、他地域の産地形成が進行する中で、独自性を保ちながら差別化を進めることが極めて困難になってきている。このように、稲作にしろ、畑作にしろ農業従事者の脱農、高齢化の問題とともに、問題は深刻さを増してきていることは疑いない。もちろん、小数ながらこの困難に独自の論理、独自の方法で生き延びようとしている農民がいるのも事実である。ここが今後分析の焦点になる。
|