研究課題
今年度はいわゆる「蝦夷館」の研究史をとりまとめ、「蝦夷館」の全体的な特徴の把握につとめた。そのために従来の研究成果をとりまとめ、今後研究を進める場合の問題点を検討する研究集会を実施し、測量・発掘調査の際に留意すべき点をも確認した。また古代の蝦夷社会の構造、生業などに関係する文献史料の調査を行なった。今年度の研究の結果では、「蝦夷館」の全体的な特徴は次のようにまとめられる。すなわち、「蝦夷館」の多くは地表面に竪穴住居跡の痕跡を有する。そして立地と構造を加味して考えると、(1)平地との比高差数十メートル以上の高地に立地し、特に濠や土塁などを持たないもの、(2)丘陵の突端部に存在し、基部が濠で切断されているもの、(3)周囲に濠をめぐらすもの、(4)周囲に土塁をめぐらすもの、などに大別される。このような特徴を有する「蝦夷館」は、低地に立地し、濠や土塁を有しない一般の集落とは明らかに様相がことなる集落であり、きわめて防御的色彩の濃い集落であると考えられる。したがって「蝦夷館」の構造、年代などを明らかにし、古代の蝦夷社会がなぜ「蝦夷館」のような遺跡を残したのかを考えることは、古代蝦夷研究の上できわめて重要であることをあらためて確認した。また北海道のチャシに関する資料を収集し、代表的なものを実地踏査した結果、チャシには「蝦夷館」に類似する形態のものがあることを確認し、「蝦夷館」がチャシの源流となった可能性を追求する必要があることを知った。さらに平成6年度の測量・発掘調査を行うため岩手県北部を中心に「蝦夷館」遺跡の踏査を実施し、岩手県岩手郡岩手町内所在の遺跡を対象として調査を実施するのがふさわしいとの結論を得た。