研究課題
平成5年度及び6年度における我々の研究は、児童相談所に対して実施した児童虐待に関する調査と、一般家庭にみられる虐待もしくは虐待疑似行為の実態調査であった。平成7年度は、この調査結果をもとに、前者に関し、虐待者及び被虐待児に見られる特徴、児童虐待の背景や要因についての分析を行い、さらに児童相談所への通報・発見の経路、児童相談所による介入の結果等の分析により、児童虐待における児童相談所の果たす役割について考察した。後者に関し、虐待もしくは虐待疑似行為が一般家庭にどの程度浸透しているかについて分析し、このような行為を行っている母親については、育児の困難さ、子どもの主観的発達の状況、家庭関係、母親のおかれている状況等を中心に分析し、虐待を促進する要因について考察した。なお、児童相談所で扱われた児童虐待の分析結果は、第22回日本犯罪社会学会(平成7年10月22日)で報告し、「『児童虐待への取り組み』の問題点と課題」として、児童虐待の予防とケア-への取り組みや、児童の権利条約、児童福祉等関連する参考法令についての見解を示し、現行法や「児童虐待の定義」に関する検討の必要性を強調した。本研究当初に掲げた「被害者の加害者化」という仮説については、次のような結果を得た。児童相談所において実施した児童虐待に関する調査によれば、虐待者全体の中で不明が60%以上あるものの、それを除いた者の中では、全体の39.6%が、中でも、身体及びその他の複合的虐待を行っている虐待者の60%近くが過去に虐待を受けたと答えている。一般家庭に対して実施した調査においても、親からかわいがられて育った母親の虐待得点は低く、親から無視されたり、兄弟と差別された体験をもつ母親は虐待得点の高い調査群に多いことが認められた。これのことは、今回の調査の目的に照らし、評価して良いと思われる。以上のことと並行して、諸外国の児童虐待に関する文献研究も行っている。