研究課題
海洋構造用鋼として期待の高降伏点(YP420〜500MPaクラス)の高強度TMCP鋼のK開先多層溶接継手を、溶接入熱レベルや溶接金属の強度レベルを種々に変化させて作製し、靭性劣化が問題となる多層溶接熱影響部(HAZ)の基本的靭性特性を把握する目的で、溶接ボンド部に切欠きを導入した三点曲げCTOD試験を行った。また、このようなHAZ切欠き試験片の切欠き先端近傍の応力・ひずみ特性に溶接部特有の強度不均質がどのような影響を与えるかについて3次元有限要素方解析を行った。その結果、溶接金属の強度的overmatchは次の二つの特徴的な影響をもたらすことが判明した。HAZの靭性劣化が著しい場合には、溶接金属の強度的overmatchは塑性拘束をもたらしHAZにおける局部応力を上昇させるために、HAZからの脆性破壊を促進し、母材と溶接金属の強度レベルが同じevenmatch継手よりも明らかに破壊限界CTODを低下させる傾向にある。一方、HAZ靭性が良好な場合には、溶接金属の強度的overmatchは低強度の母材側に塑性変形を選択的に進行させ、HAZから脆性破壊が発生する以前に低強度の母材側へ延性き裂が湾曲成長する結果、evenmatch継手よりもかなり高い破壊限界CTODが出現する。本結果は、多層HAZのCTOD試験結果は溶接部特有の強度ミスマッチの影響を十分考慮して解析する必要のあることを示唆しており、本研究の目的である新しい高靭性高強度鋼板の海洋構造物への適用性判定手法を確立する上で重要な指針を与えている。
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