研究概要 |
この研究の目的は,原子よりも構造的に複雑な分子をベースとして作られる低次元性有機導体において,電流の担い手となる低次元電子系の構造とダイナミクスを解明することである。 前年度に引き続き3つの課題すなわち,擬2次元BEDT-TTF系物質の低温・低磁場・低圧領域での異常相の解明,擬1次元DCNQI系物質の金属-絶縁体-金属再転移の起因の解明,擬1次元TMTSF系物質の磁場下の電子状態の解明にとりくんだ。 BEDT-TTF系物質では,特に,異常相と正常相の電子構造の関係を探るため,高圧におけるフェルミ面の形状を角度依存磁気抵抗の測定によって調べた。その結果,正常相の楕円筒状フェルミ面の楕円主軸が,従来の定説とは異なり,結晶軸と有限(15度)の角をなしているということを発見した。また,正常相の1次元的フェルミ面のネスティングによって,異常相の1次元的フェルミ面がを形成されるという,従来の解釈については,これを裏付ける結果を得た。 DCNQI系物質では,金属-絶縁体-金属再入転移近傍の電子比熱を,重水素化した試料について調べ,状態密度が特に増大してはいないことを発見した。したがって,再入転移の機構として重い電子系形成の可能性は薄いことが結論される。(TMTSF)2C1O4の磁場誘起スピン密度波状態については,分数量子ホール効果状態を発見すべく,磁場の角度を変えながら測定をおこなったが,整数量子ホール効果しか発見できなかった。これは,電子系が本質的に2次元の性質をもち,3次元性が極めて小さいことを意味する。
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