伝導性二次元化合物における電子相関効果

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05402013
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 安岡 弘志 東京大学, 物性研究所, 教授 (50026027)
• 研究分担者: 林 昭彦 東京大学, 物性研究所, 助手 (10228562) ; 上田 寛 東京大学, 物性研究所, 助教授 (20127054) ; 家 泰弘 東京大学, 物性研究所, 教授 (30125984)
• キーワード: 電子相関 / 低次元物質 / 核磁気共鳴 / ペロフスカイト構造 / 電荷密度波 / オーバードープ / スピンギャップ / 酸素不定比性

研究概要

平成6年度は以下の酸化物、硫化物について試料合成を行い、酸素不定比性の制御、X線回析による構造、相転移の検討、SQUIDによる磁化測定、核磁気共鳴(NMR)によるナイトシフトおよび縦緩和時間(T_1)の測定等を行った。
1.CaVO_y(y〜3) ペロフスカイト組成の化合物と考えられてきたが、今回酸素量の異なる三種類の化合物(すべて金属伝導を示す)を同定した。定比化合物(y=3)は斜方晶でパウリ常磁性を示すがNMRの結果からSrVO_3に比べても強い電子相関をもつことがわかった。y=2.9付近にはマクロには立方晶にみえる化合物が存在するがNMRおよび電子顕微鏡観察から斜方晶のマイクロドメインから成ることがわかった。帯磁率はキュリー・ワイス的挙動を示すが、ナイトシフトはほとんど温度変化を示さず、酸素欠損に伴い局在モーメントをになうサイトが一部に現れた電荷分離状態にあることを示す。さらに、y=2.75近傍の正方晶相を今回初めて見いだした。ナイトシフトは正で温度減少とともに増加し、正の超微細相互作用を示唆する。
2.K_3CU_8S_6 CU_8S_6面がKによりへだてられる層状構造をとり、温度減少に伴い、金属→CDW絶縁体→金属と逐次転移する。NMRにより、低温金属相においてもまだCDW状態が残っていること、低温金属相への転移の前後ですべてのCuサイトのナイトシフトは変化しないことを見いだした。この結果は輸送現象とは整合せず、スピン帯磁率をもたないキャリアとしてのソリトンの存在の可能性も考えられる。
3.CuS CuS三角格子とCuS_4四面体のそれぞれが二次元面をつくる層状構造をもつ金属である。帯磁率は高温超伝導酸化物にもみられる低温での減少を示す。NMR測定の結果はイオウで4配位されたCuサイトの超微細相互作用は負であり電子構造は3d^9に近く強いイオン性をもつことを示し、帯磁率は電子相関よりも半金属的バンド構造を反映していると考えられる。
4.LaBa_2Cu_3O_y 90K級超伝導体であるYBa_2Cu_3O_yと同型構造であり、y〜7ではほぼ同じ超伝導転移温度(T_c)をもつ。高酸素圧処理によりy=7.06の試料の合成に成功した。この試料ではT_cは約20K降下しており123構造では初めてのオーバードープ状態が実現したと考えられる。帯磁率およびNMR測定結果はスピンギャップ的挙動が抑えられたことを示しているが、同時に最適ド-ピングを与えるyは必ずしもスピンギャップの消失するキャリア濃度と一致していないことも明らかになった。

研究成果

• [文献書誌] Y.Itoh: "Pairing symmetry of high-Tc Cu oxide superconductors studied by nuclear spin-spin relaxation" J.Phys.Soc.Jpn.63. 1455-1464 (1994)
• [文献書誌] S.Kambe: "Carrier concentration dependence of covalent bonding between apical O and Cu sites in Tl_2Ba_2CuO_y probed by NMR." Physica B. 199&200. 250-251 (1994)
• [文献書誌] H.Yasuoka: "Spin-gap behavior in high-Tc oxides observed by nuclear spin-lattice relaxation." Physica B. 199&200. 278-280 (1994)
• [文献書誌] J.Kikuchi: "Antiferromagnetic nuclear resonance of ^<51>V in LaVO_3 and YVO_3" J.Phys.Soc.Jpn.63. 3577-3580 (1994)
• [文献書誌] M.Hasegawa: "Growth and anisotropic superconducting properties of Tl_2Ba_2CuO_6 and Tl_2Ba_2CaCu_2O_8 single crystals" Physica C. 231. 161-166 (1994)
• [文献書誌] K.Ikushima: "^<11>B NMR study in the new boride carbide superconductor LuNi_2B_2C" J.Phys.Soc.Jpn.63. 2878-2881 (1994)
• [文献書誌] J.Kikuchi: "Cu nuclear quadrupole resonance study of CuGeO_3" J.Phys.Soc.Jpn.63. 872-875 (1994)
• [文献書誌] T.Machi: "Carrier concentration dependences of the nuclear spin-lattice relaxation rate and the Knight shift in Y_<1-X>Ca_XBa_2Cu_4O_8" Physica C. 226. 227-234 (1994)
• [文献書誌] S.Kambe: "Dynamical spin susceptibility and Bi-layer coupling" J.Phys.Soc.Jpn.43. 3481-3487 (1994)
• [文献書誌] T.Ohno: "Nuclear quadrupole resonance study of the high-Tc related Cu oxide La_4BaCu_5O_<13+δ>" J.Phys.Soc.Jpn.63. 3850-3859 (1994)
• [文献書誌] I.Tomeno: "NMR study of spin dynamics at planer oxygen and copper sites in YBa_2Cu_4O_8" Phys.Rev.B. 49. 15323-15334 (1994)
• [文献書誌] K.Otzschi: "Superconductivity of(La_<1-X>Ba_X)_3Cu_3O_y" Physica C. 235-240. 839-840 (1994)
• [文献書誌] Y.Iye: "The Metal-Nonmetal Transition Revisited (eds.P.Edwards and C.N.Rao)" Taylor & Francis Ltd.,London, (1995)