研究概要 |
走査トンネル顕微鏡の探針-試料系を微細な接合系として取り扱い、接合容量に注目してその距離依存性について実験研究を行った。主な研究成果は以下の通りである。 1.シリコン清浄表面を試料とした実験では、容量は遠距離(500nm以上)では探針-試料間距離の対数に比例して増加する。この距離依存性は探針を球と仮定したときに得られる静電容量の距離依存性と一致する。しかし距離が100nm以下になると容量の距離依存性は弱まり、距離の逆数に比例した発散は観測されない。 2.上記の距離依存性は、表面の面方位((111),(001)及びドーパント(p型,n型)に依らず、共通に観測される。また容量は顕著なC-V特性を示さなかった。このことは、容量の変化に半導体表面の空間電荷層が寄与していないことを示唆している。シリコン清浄表面の表面準位によるフェルミ準位のピニングのために、容量に空間電荷層の影響が現れないものと考えられる。 3.金の清浄表面を試料とし、先端半径の異なる探針を使用して実験を行ったところ、容量の距離依存性は探針形状に強く依存していることが判明した。鋭い探針の場合には、容量の変化幅が小さく、また近距離での容量変化から求められる探針の実効的な先端半径は、実際の先端半径と良い一致を示す。一方先端半径の大きな探針では、容量の変化幅が大きい。容量変化から求められる探針の実効半径は、近距離では実際の先端半径よりも小さくなっている。 4.3.の実験結果は,探針先端への電界集中によって理解される。近距離になるに連れて電界は探針先端に集中するようになるが、鋭い探針では先端の球状の領域に電界が集中するのに対して、鈍い探針では、実際の先端半径よりも小さな部分に電界が集中するため、近距離での実効半径が実際の先端半径よりも小さくなると考えられる。鏡像電荷法による容量の理論計算結果も、このような解釈を支持している。
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