環境条件に対する生理心理的な応答に関する知見を得るための第一歩として、はじめに建築学、音響学、人間工学、生体・生理工学、医学、精神生理学の各分野における既往研究を調査した。特に、建築・都市環境の分野に研究の例が少ない生体情報計測に関する研究を中心にまとめたところ、環境条件下で計測される生体情報は、背景型生体情報と刺激誘発型生体情報に分類できることが判明した。背景型生体情報とは、生体が晒される環境条件にかかわらず背景的に存在し常に計測可能な信号であり、刺激誘発型生体情報とはある環境刺激がトリガーとなって短潜時で計測される信号である。背景的生体情報は覚醒レベル・情動状態等を反映し、生体の状態をマクロに時系列で記述するものであり、進行脳波や内分泌系・自律神経系の信号があげられる。刺激誘発型生体情報はトリガーとなる環境刺激に対する知覚・注意に関する大脳での情報処理や初期的な心理反応等を反映しており、聴覚誘発電位・視覚誘発電位等の大脳の信号があげられる。今年度はまず基礎的な部分を押さえることを重視し、環境刺激に対して大脳皮質部で行われる高次な情報処理に関する知見を得ることを目的に、特に聴覚刺激とその刺激誘発型生体情報である聴覚誘発電位の計測に関する実験を行った。その結果、ピンクノイズを刺激音として、音圧レベルと音に対する注意の量を要因として変化させて、頭頂部の聴覚誘発電位を計測する実験を行ったところ、各パラメータに音圧レベル依存性と注意量依存性の双方が独立に存在することが判明した。すなわち、後期成分の潜時のそれぞれが音圧レベルが大きくなるにつれて短くなること、呈示音に注意が向いている時は注意を他の作業に集中している時より潜時が短くなること、が確認された。これは、大脳の信号の多チャンネル同時計測により、聴覚等の環境刺激に対する情報処理の過程を把握できる可能性を示唆するものといえる。
|