研究概要 |
環境からの感覚刺激として聴覚刺激を取り上げ、それに対する生体反応である聴覚誘発電位、特にその後期成分で高次な心理的情報処理過程を反映する頭頂部緩反応(Slow Vertex Response,SVR)に着目し、その測定と解析を通して聴覚情報の知覚に関する幾つかの新たな知見を得た。 具体的には、聴取条件として A)閉眼安静 B)開眼安静 C)計算作業、の3条件を設定し、各条件下で30dBAの暗騒音上に受聴点音圧レベルで33,40,50,70dBAのピンクノイズを被験者に呈示する実験を行い、その際のSVRを被験者から記録した。 その結果、音に注意を向けずに作業をしている人でも、33dBAという非常に小さい音を無視せずに大脳内で処理していることが明らかとなった。また、70dBAでは聴取条件にかかわらず同じ程度に大きく知覚された音も、50dBA以下で音に注意が向いていない場合には、その音を注意して聴いている場合よりも小さな音として処理される、ということが示された。 一方、聴覚情報の知覚に対する馴れの影響の解析をも行った。すなわち、SVR波形の周波数構成に適応したディジタルロ-パスフィルタを用いてSVR波形を得るための加算平均の回数を減らすことにより、SVR波形の時間的推移を捉えた。この手法を適用して、上述の実験のうち条件 B)の測定結果をSVRの代表例として取り上げ、実験の前半・中間部・後半のSVR波形を比較した。 その結果、50dBAより小さい聴覚刺激に対しては経過時間によらずに同じ知覚反応が起こること、50dBA以上の聴覚刺激に対しては知覚反応が経過時間の影響を受け、実験開始直後には鋭敏だった知覚反応が時間経過に従って次第に馴化し、やがて定常的な反応に落ち着く過程が示された。 以上のように、生体の聴覚情報処理に関して幾つかの新たな知見を得た。これを基に更に研究を展開していく予定である。
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