ナノメーター寸法の異種金属の積層構造を作成する手段として、室温における繰り返し圧縮加工を利用する可能性を実験的に確かめた。すなわち、Ag-FeやCo-Cu系のような非固溶系のシステム、およびNi-Al系のように、化合物形成の傾向の大きいシステムについて、繰り返し圧縮による構造変化を実験した。具体的な実験手段としては、数10ミクロンの厚さのそれぞれの金属の箔を交互に数100枚重ね、この試料を繰り返して圧縮または圧延により展延した。1回の加工率は約1/2であり、繰り返し加工数は10回〜12回行った。非固溶合金システムにおいては、異種金属の超微細積層組織が得られた。この積層材の異種金属間の層間距離は数ナノメートルに達していることが、磁気抵抗効果(GMR)の測定により明らかとなった。Ag-Cu系のような相互作用の弱い金属元素同志のシステムでは、ナノスケールに微細化すると一部固溶が始まることが認められた。Ni-Ag系など化合物形成の傾向の大きいシステムでは、約100ナノメートルにまで層間隔が狭くなると室温において化合物合成反応がスタートして、爆発的に反応が進行するいわゆるSHS反応が起こることが確かめられた。これらの実験結果は、箔の積層材のみならず、異種金属の混合粉を繰り返し圧縮加工する方法によっても決められた。
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