本年度の主な研究成果は、新しいクラスター構造の実験的研究方法を確立し、水素結合クラスターおよびそれらの陽イオンの構造に関する分光学的解析を行い、構造とダイナミクスに関する多くの知見を得た。反応分子間構造を決めることは、分子クラスター内反応研究の基礎として極めて重要な意義がある。成果の一部は以下のとうりである。 1.分子クラスターの赤外紫外二重共鳴分光法を用いて、フェノール・水和クラスターのOH伸縮振動領域の赤外スペクトルを観測した。クラスター構造に関する重要な実験事実を見いだし、量子化学的理論計算による構造解析を行って、フェノール・水和クラスターPhOH-(H2O)nでは、n=2^〜4について環状水素結合構造が安定構造であることを確定し、n=4とされる異性体は分岐状構造かイオン対構造であることを示唆し、学術誌に公表した。 2.赤外紫外二重共鳴分光法を用いて、フェノール多量体のOH伸縮振動領域の赤外スペクトルを観測した。また、誘導ラマン分光法を併用して、3量体が対称的環状水素結合構造であることを実験的に確定し、学術誌に公表した。この結果は、凝集の初期過程として結晶成長ダイナミクスの理解に関する重要な情報を与える。 3.蛍光をモニターする赤外紫外二重共鳴分光法を開発して、フェノール・水和クラスターの電子励起状態のOH伸縮振動領域の赤外スペクトルを観測した。フェノールの電子励起状態の酸性度は基底状態に比べて著しく大きいが、OH伸縮振動の変化にその様子が反映していることを実証し、学術誌に公表した。
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