Surface photochemistryの基礎的電子過程に関する理論的研究

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05403006
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 中辻 博 京都大学, 工学研究科, 教授 (90026211)
• 研究分担者: 中井 浩巳 京都大学, 工学研究科, 助手 (00243056) ; 波田 雅彦 京都大学, 工学研究科, 助教授 (20228480)
• キーワード: 表面光化学 / Dipped Adcluster Model / SAC-Cl法 / 量子化学 / 光分解反応 / SERS(表面増強ラマン散乱) / STM(走査型トンネル顕微鏡)

研究概要

本研究の目的は、理論的な立場から表面光化学の電子プロセスを明らかにすることである。表面-分子系の理論モデルとしてクラスラ-モデルとDipped Adcluster Model(DAM)を用いて、その系の基底状態と励起状態の電子構造およびエネルギーをSAC-Cl法などの量子化学計算により求めた。以下に具体的な研究成果を述べる。
我々は昨年度まで、金属表面と金属錯体のアナロジーから、Pt表面からの吸着CO分子の光刺激脱離とNi(CO)_4の光分解のメカニズムを研究してきた。本年度はFe(CO)_5の光分解について研究した。我々は、三方両錐型構造をしたFe(CO)_5が励起し、エカトリアル位のCO分子が1つ解離する過程のポテンシャルカーブを求めることに成功した。また、光分解により生成されたFe(CO)_4の基底状態は三重項状態であることも示された。
表面-分子系の励起状態が関与する現象として、SERS(表面増強ラマン散乱)の電子的発現機構について研究した。系のラマン強度を時間依存HF法/有限差分法により計算した結果、吸着系では気相中に比べ10^7倍程度強度が増大されることが示された。これは、表面-分子間が相互作用することにより新たに生じた励起状態による共鳴のため起こる。しかし、この共鳴状態は従来言われていたように電荷移動状態ではないことも示された。
表面-分子間の電子移動を伴う現象として、STM(走査型トンネル顕微鏡)の電子論について研究した。まず、Bardeenの摂動論に基づいてSTMの分子軌道モデルを提案し、これによりSTM像の理論シミュレーションを行った。その結果、STM像は電子雲を観るため、必ずしも原子の位置を反映しているのではないことが確認された。更に、STM像には分子軌道の位相が関与すること、つまり軌道対称則が存在することが示された。吸着ベンゼンのSTM像では、吸着構造によって3つのピークが現われたり、6つのピークが現われたりすることが示された。

研究成果

• [文献書誌] H. Nakatsuji: "Colision Induced Absorptions of CsRg System (Rg=Xe, Kr, Ar, Ne) Studied by the SAC-CI Method" J. Chem. Phys.102. 6822-6830 (1995)
• [文献書誌] H. Nakatsuji: "Theoretical Study on the Chemisorption and Surface Reaction of HCOOH on an MgO(001) Surface" Surf. Sci.336. 232-244 (1995)
• [文献書誌] H. Nakatsuji: "Theoretical Study of the Vacuum Ultraviolet Spectra of the SnH_4 and Sn(CH_3)_4" J. Phys. Chem.102. 12501-12506 (1995)
• [文献書誌] H. Nakatsuji: "First-principles Molecular Dynamics Study of Acetylene Adsorption on the Si(001) Surface" Surf. Sei.341. L1091-L1095 (1995)
• [文献書誌] H. Nakatsuji: "Theoretical Study on the Photostimulated Desorption of CO from a Pt Surface" J. Chem. Phys.104. 714-726 (1996)
• [文献書誌] H. Nakatsuji: "Theoretical Study on the Chemisorption and the Surface Reaction of HCOOH on a ZnO(1010) Surface" J. Phys. Chem.(in press) (1996)
• [文献書誌] M. Hada: "Theoretical Study of the Transition Energies of the Visible Absorption Spectra of [RhCl_6]^<3-> and [RhCl_5(H_2O)]^<2-> Complexes in Aqueous Solution" Bull. Chem. Soc. Jap.68. 1601-1605 (1995)
• [文献書誌] M. Hada: "Theoretical Study on the Electronic Spectraum of TcO_4" Theoret. Chim. Acta. 92. 351-359 (1995)
• [文献書誌] M. Hada: "Theoretical Study on the Excitation Spectrum and the Photofragmentation Reaction of Ni(CO)_4" J. Chem. Phys.103. 6993-6998 (1995)
• [文献書誌] M. Hada: "Geometry and Characterstics of Density Difference. I. Homopolar Bond Formation" Theoret. Chim. Acta. (in press) (1996)
• [文献書誌] H. Nakai: "Theoretical Study on the Photochemical Decomposition Reaction of Permanganate Ion, MnO_4" J. Phys. Chem.99. 8550-8555 (1995)
• [文献書誌] H. Nakai: "Electronic Mechanism of the Surface Enhanced Raman Scattering" J. Chem. Phys.99. 2286-2294 (1995)