研究概要 |
本年度は、初年度でのMo,W,Re,Os,Ruの新複核錯体の合成と酸化還元反応などの研究をさらに発展させ,新錯体8種を合成し,3種の結晶構造解析を行った.金属イオンの電子数を変えた時の構造変化を調べることが,構造と電子状態,酸化数との関係を明かにするポイントであると考え,合成した錯体の酸化還元反応性を重点的に調べた.(1)Mo錯体.初年度合成した六座配位子,N,N,N^1,N^1-tetra(2-pyridylmethyl)ethylenediamine(tpen)を持つV価のdi(μ-O)型複核錯体を還元して得たMo(III)複核錯体,〔Mo_2(μ-OH)_2(μ-CH_3COO)(tpen)〕^<3+>の構造を解析し,Mo-Mo距離がMo(V)錯体より短くなり,金属間結合が強化されることを明かにした.(2)Re錯体.金属間三重結合をもつRe(IV)錯体2種,〔(L)Re(μ-O)_2Re(L)〕^<4+>((L)=tris(2-pyridylmethyl)amine,bis(2-pyridylmethyl)(2-(4-methyl)pyridyl)amine),およびO=Re-O-Re=O型直線状骨格をもつRe(V)複核錯体2種(配位子はbis-(salicylaldehyde)ethylenedi-amineおよびpropylenediamine誘導体)を合成しそのうち3種の構造解析を行った.前者では,(III,IV)および(IV,V)の酸化状態を可逆的に取ること,後者ではより高い酸化状態,(V,VI),(VI,VI)を安定に取ることが明かとなった.それらの状態の電子スペクトルを測定し,各酸化状態の電子構造を考察した.(3)Ru錯体.先に合成した(μ-O)(μ-CH_3COO)_2型のRu(III)複核錯体の酸化還元挙動を詳細に検討した.アセトニトリル溶液中で,添加するプロトン供与体の強さを弱めることにより,オキソ架橋へのプロトン付加が(III,II)では起こらず,(II,II)で起こるようになり,1段階2電子移動過程を実現できることが明かとなった.また,プロトンに変わるLewis baseとして,BF_3を添加した場合のオキソ架橋への付加に伴う酸化還元挙動が観測された.しかし,tpenを含むジオキソ架橋の新錯体は同様のプロトン関与酸化還元挙動を示さなかった.
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