研究概要 |
六配位八面体ケイ素(IV)錯体のうちで水溶液中で安定なトリス(1,10-フェナントロリン)ケイ素(IV)錯体の光学異性体が、液体カラムクロマトグラフィーによって完全分割できることは、本科学研究費の支給を受ける以前にすでに我々が見出している。 トリス(1,10-フェナントロリン)ケイ素(IV)錯体のクロマトグラフィーにおける光学分割機構を解明するため、溶離剤である(+)-タルタラトアンチモン(III)酸塩の存在下および非存在下での上記ケイ素(IV)錯体の^1H NMRスペクトルを測定した。溶離剤を加えると、鏡像体間で配位子の2,9位のプロトンに最も大きな化学シフトの差が観測された。このことから、両イオン間の相互作用は溶離剤の陰イオンがC_3軸に沿ってケイ素(IV)錯体に接近することで生じると考えた。溶離剤存在下では、2,9位のプロトンシグナルは△-体の方が大きくシフトすることがわかり、1:1のイオン的相互作用を考えただけでは先のクロマトグラフィーで△-体が先に溶離することが説明できない。そこで二段目の会合の測定を行い、1:2のイオン的相互作用は、△-体の方が大きいことを見出しクロマトグラフィーの溶離順を説明することに成功した。 上記のクロマトグラフィーにおける光学分割機構は、ケイ素(IV)錯体と溶離剤陰イオンとの間のイオン会合体の安定性を経験的力場計算法により、より一層確実なものとすることができた。なお、経験的力場計算に先だち、光学活性なケイ素(IV)錯体のX線結晶構造解析を行い、計算位に必要な初期座標を求めた。 以上の研究と並行してシッフ塩基を配位子とする八面体ケイ素(IV)錯体の合成、および、トマトを無ケイ素の条件で栽培し、植物におけるケイ素の重要性を調べる研究も進行中である。
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