研究概要 |
生体中でのケイ素の重要性が近年強く指摘され始めた.我我は,それに関与するケイ素の化学種は,高配位ケイ素(IV)錯体であるとの考えから,種種の化合物を合成し,それらを立体化学的に研究することにした.トリス(1,10-フェナントロリン)ケイ素(IV)錯体については昨年度詳しい報告を行っているので,本年度は,2,2′-ビピリジンケイ素(IV)錯体について報告する.トリス(1,10-フェナントロリン)ケイ素(IV)錯体は,充填剤にSP-セファデックスを,溶離剤に(+)_<589>ータルトラトアンチモン(III)酸ナトリウムを用いた液体カラムクロマトグラフィーにより完全分割を達成することができた.しかし,この同じ方法を2,2′-ビピリジンケイ素(IV)錯体に適用してみたが,部分分割しかできず,不思議なことに,その溶離順は前者の場合とは逆であった.この錯体の完全分割は,ジベンゾイル-(+)_<589>-酒石酸ナトリウム(Na_2(benz)_2tart)を溶離剤に用いて,初めて成功した.したがって,この錯体の光学活性体のCDスペクトルを完全な形で得ることができた. 本研究では,〔Si(OH)_2(bpy)_3〕^<2+>の光学分割も行い,これのシス構造を証明した. カラムクロマトグラフ操作の溶液中に存在すると考えられる錯陽イオン,〔Si(bpy)_3〕^<4+>と溶離剤陰イオンとの間のイオン会合体の経験的力場計算も行い,先に溶離する∧-錯陽イオンの方が溶離剤陰イオンとより安定なイオン会合体を形成することを確かめた. 同時に,上記の(+)_<589>ータルトラトアンチモン(III)酸ナトリウムを用いた場合が溶離順に逆転し,しかも部分分割しかできないであろうことも指摘することができた. 本主題による研究は五配位ケイ素(IV)錯体であるシラトラン誘導体にも範囲を拡げ,すなわち,(キレート環のひとつの)4位にメチル基,イソプロピル基を導入した光学活性体を合成し,それらを立体化学的に研究した.
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