研究概要 |
本研究は,ビラジカル活性種の電子状態を高次制御することによって,新規でかつ実用的にも有用な[3+2]型付加環化反応を実現することを目的として行った.すなわち,これまで一重項と三重項状態が混合するために反応性の制御が極めて困難とされてきたトリメチレンメタン(TMM)やビニルカルベン活性種(VC)の電子状態を,置換基を適当に選択することで一重項に制御し,全く新しい双極性一重項3炭素4π電子反応剤を作り出し,これをオレフィンなどの2π系受容体と反応させることで五員環化合物の新規合成法を開拓した.本年度は主として双極性TMMとVCの生成とその基礎的反応性を速度論的に解明するとともに,生理活性物質,フラーレン類関連の検討を行った.具体的にはメチレンシクロプロパンからTMM生成の反応機構を種々の置換体をプローブとして速度論的研究を行うことによって明らかにし,ついでこうして生成する置換TMMやVCのオレフィンやヘテロ二重結合との付加環化反応の位置,立体選択性を検討した.置換基効果と反応の立体選択性の関連などの解析を鍵にした反応機構解析を行い,TMMやVCの基本的な反応機構パターンを明かにした.TMMやVCとフラーレンの反応によって合成した有機フラーレンの官能基変換によって水溶性フラーレンを得,この生理活性を調べたところ光照射下で抗ガン活性,核酸切断活性が見られることが分かった.これはフラーレン類の生理活性の報告としては最初のものであり,新しい反応活性種の化学が社会的要請に答える先進的成果を生んだものと考えられる.本研究のために購入した高磁場核磁気共鳴装置及びドライボックスは不安定中間体の検出,取り扱いなどに重要な役割を果たした.
|