エリスロポエチン(EPO)は、赤血球前駆細胞に特異的に作用して、赤血球への分化と増殖を促進すると信じられてきたが、中枢神経系においてEPO・EPO受容体系が機能していることを発見した。すなわち神経細胞がEPO受容体を発現し、神経細胞をとりまくアストロサイトがEPOを生産していることを明らかにした。EPOは赤血球系ではエンドクライン様式で作用するのに対し、神経系ではパテクライン様式で作用することが判明した。そこで腎臓で生産され血中を流れるEPO(血清EPO)とアストロサイトの生産するEPO(脳EPO)について、EPO依存性細胞株EP-FDC-P2を用いて活性を比較した。その結果、脳EPOの方が2倍活性が高かった。またRCAやWGAレクチンに対する結合性を調べたところ、脳EPOは糖鎖末端のシアル酸含量が血清EPOに比べて少ないことが明らかになった。そこでSDS-ゲル電気泳動により、両EPOの分子サイズを測定したところ脳EPOの方が僅かに小さかった。ついで両者をシアリダーゼ処理すると分子サイズは一致した。末端のシアル酸は、血流中での安定性に重要であるが、in vitroの活性発現には必要でなく、むしろ活性を低下させることが知られている。これより脳EPOは、シアル酸をつけないことで血清EPOより活性を高め、パラクライン様式に適応していると考えられた。 EPO産生の最も重要な因子は酸素分圧が低下することであり、脳EPOも低酸素圧になると顕著に産生誘導される。そこで脳虚血時におけるグルタミン酸による神経細胞死をEPOが抑制できるかどうかを、胎生18日のラット胎児海馬神経細胞を用いて検討した。その結果、EPOはグルタミン酸による海馬神経細胞死を90%抑制し、非常に効果のあることが判明した。EPOの神経系での生理作用とその機作についてさらに検討している。
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