エリスロポエチン(EPO)は赤血球前駆細胞に作用し、その分化と増殖を促進する糖蛋白質であり、腎臓で生産される。EPOは赤血球造血にのみ生理的意義があると考えられて来たが、我々はEPOが中枢神経系及び子宮組織毛細血管系に重要な生理作用を持つことを証明した。以下に成果を列挙する。 (1) EPO受容体は中枢神経系の海馬及び大脳皮質に発現している。 (2) EPOは中枢神経系では、アストログリアが生産しており、その生合成は低酸素、インシュリン及びインシュリン増殖因子により促進される。 (3) EPOはグルタミン酸(Glu)による神経細胞死を抑止する。Gluにより神経細胞死は脳虚血による神経細胞死の原因と考えられており、EPOは神経栄養因子として神経細胞生存に重要な働きを持つ。 (4)子宮組織は性周期に応じて退行と再生を繰り返し、再生期には活発な血管新生を伴う。EPOはこの血管再生を促進することを発見した。他方、EPOと結合する受容体細胞外領域を子宮腔内に投与すると、血管再生が強く阻害され、EPOが子宮組織内の血管形成に必須であることを示す。 (5)子宮組織の再生は、ステロイドホルモンであるエストラジオールの支配下にある。エストラジオールは卵巣で合成される。卵巣摘出したマウスにエストラジオールを投与すると、非常に早い時期(1時間以内)にEPO mRNAが検出され、4時間後にピークになり、その後低下する。 (6)免疫抗体染色により、EPO受容体は毛細血管内皮細胞に発現していることを証明した。以上の結果は、EPOは子宮組織内で生合成され、エストラジオールがその生合成を制御していると、EPOは子宮内毛細血管の形成に重要であることを示している。
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