研究概要 |
エナンチオマー間の体内動態の相違点が研究され、現在医療に供されているラセミ体医薬品の副作用が大きな社会問題となったことから、光学活性体の効率的な合成法の開発が有機合成化学の重要な命題となって来た。しかし従来多くの不斉合成法が開発されたが、工業的に有用な方法は殆どない。本研究は光学活性医薬品や液晶に有用な光学活性ファインケミカルズ等の効率的合成法の開発のために、酵素、微生物等の生体触媒を活用した不斉合成反応の開発を目的としている。2-0-置換-グリセリンを基質とする酢酸ビニル中でのリパーゼ触媒エステル交換反応により、高密度の光学活性モノエステルが高収率で得られることを明らかにした。生成物の光学活性体をキラル素子として、beta-ブロッカー、L-カルニチン、PAF関連化合物等を合成することが出来た。(Tetrahedron Lett.,29,4755(1988))更に2-置換-1,3-プロパンジオールを基質とする場合にも高純度モノエステル体が得られ、レニン阻害薬合成の重要中間体を合成するキラル素子として応用された。(Tetrahedron Lett.,30,6189(1989))ラセミアルコール体無水コハク酸との酵素触媒不斉分割(Chem.Pharm.Bull.,37,1653(1989))、アシロキシメチル基の導入による光学活性ジヒドロピリジン系医薬品、バルビツレート系医薬品の不斉合成(Tetrahedron Lett.,32,5805,32,6763(1991)),d-a-トコフェロールの不斉分割(Tetrahedron Asym.,4,1961(1993))等に成功し、有機溶媒中での酵素反応の有用性が実証された。特に我々の開発した非水系での酵素反応による光学活性1,4-ジヒドロピリジン系の医薬品の工業的酵素触媒不斉合成法の確立は、酵素反応で非天然型有機化合物の工業的不斉合成に成功した最初の例で、この方法が極めて効率的であることを明らかにした。
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