本研究は、日本で開発された数少ない実験動物であるメダカにおいて、まず遺伝子導入の系を完成する目的でメラニン合成の主酵素であるチロシナーゼの遺伝子を分離し、構造決定をすることから開始した。黒色色素のメラニンを標的とすることで、メダカのアルビノ(白色)変異株にチロシナーゼ遺伝子を導入し、正常に発現するメラニン色素により遺伝子導入の系が作動していることを確認した。さらにメダカの主要組織適合抗原系の遺伝子を分離し、その構造決定をおこない、いわゆるMHCクラスIIβの遺伝子三種をクローニングした。そのDNA塩基配列をもとに既知の哺乳類、鳥類、他の魚類の相同遺伝子と相互比較した。その結果、多くの新事実が明らかとなった。とりわけ哺乳類では、この三種のクラスIIβ遺伝子が哺乳類の多様な分岐以前に多様化しているのに魚類ではメダカの枝、コイ科の枝、シクリッド科の枝で独立に多様化が起こっていることが判明した。これにより、魚類においてもMHC遺伝子の多様化に遺伝子の重複が重要な役割をなしていることが判明した。またこの解析中、魚類のDNA型トランスポゾンの存在が確認された。
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