心洞房結節細胞の自発活動電位発生のメカニズムについて研究してきたが、我々はこれまで記載のない新たな内向き電流を発見した。この電流は拡張期緩徐脱分極の膜電位範囲で活性化し、この膜電位範囲では不活性化を殆ど示さない。電流の大きさは一個の細胞あたり50-100pAにも及び、拡張期緩徐脱分極発生に重要な電流系であることが推測された。そこで、この電流系の性質を詳細に調べることを行った結果、この電流の薬理学的性質はL-型カルシウムチャネルに非常によく似ていることがわかった。即ち、ニカルジピンやD600等いわゆるカルシウム拮抗役によって抑制されるが、TTXには非感受性で、しかも、β-受容体刺激で電流が増大し、この作用はAChによって拮抗される。そこで、この電流はL-型カルシウムチャネルのいわゆる定常電流ではないかと考えられたので、この点を詳細に検討する必要があった。そこで外液のイオン選択性について検討した。外液のカルシウムイオン濃度を減少していくと、0.1mM以下にするとL-型カルシウム電流は完全に消失したが、持続性内向き電流は抑制されることはなかった。逆に、外液のナトリウムイオンを除去すると、持続性内向き電流は消失し、L-型カルシウム電流は残った。これらの所見は持続性内向き電流がNaによて運ばれる電流であることを示している。これらの結果から心筋細胞でこれまでまったく知られていなかった電流系がペースメーカー細胞に存在し、主な内向き電流を構成していることが考えられるのであるが、これを単一チャネル電流レベルと分子生物学的方法で、それを担うイオンチャネルを同定することに着手した。単一チャネルの記録は電流密度が極めて小さく極めて困難であったが、これまで、約10pSを示す、Na依存性の電流を記録することに成功したが、論文にまとめるための実験を重ねている。分子生物学的方法で、それを担うイオンチャネルを同定することはPCR法を試みている。
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