本研究助成によって、慢性関節リウマチ(RA)の病因遺伝子の解明を、RA様病変の主座である滑膜病変を中心に一連の研究を行なったきた。その結果、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)を構成している遺伝子の1つであるP40X遺伝子が世界に先駆けて、RAの病因遺伝子の有力な候補の1つであることを、滑膜増殖および関節内での免疫応答の誘導という点から明確にした。 一方、RAの滑膜は前腫瘍状態ともいえる形質を示し、臨床経過中に増殖と退縮を繰り返す。その臨床的現象にヒントを得て、RAの滑膜細胞での細胞死の機構の病変をin vivoおよびin vitroの系で確認、ヒトの自己免疫疾患において、初めてFas依存性のアポトーシスが存在することを明らかにした。この成果を列挙すると次のようになる。 (1)RA滑膜および活性化リンパ球には、特異的なFas依存性のアポトーシスが存在する。 (2)RA滑膜細胞にはFasの特異的なシグナル伝達機構が存在す。 (3)RA滑膜細胞の細胞周期とFasシグナルには一定の関連がある。 (4)RA滑膜浸潤リンパ球にもFas依存性のアポトーシスが存在する。 (5)活性化リンパ球にはFas Ligandの発現が認められる。 以上の知見に基づいて、RAの治療戦略にアポトーシス誘導という考え方を導入し、キメラ型のFas抗体の試験的治療研究に着手した。その結果、Fas抗体の関節内投与により、RA様滑膜増殖を消退させることが判明した。 こういったリウマチの病因遺伝子の研究は、我々の研究室でさらに進展しているが、HTLV-1 tax遺伝子の研究から学んだ大きな研究は、RAの病因遺伝子としての位置づけであろう。非常に多様性に富んだRAの病因遺伝子を一般的に明確にすることは、必ずしも容易ではないが、一つの大きな手がかりを掴んだといえる。
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