研究概要 |
本研究は慢性喫煙に対する生化学的反応の個体差に着目し、肺気腫発症の内的要因を明らかにすることを目的としている。肺気腫はエラスターゼ、アンチエラスターゼ不均衡により肺弾性線維の不可逆的破壊が進行するとされている。われわれは、その分解産物(Elastin-derived peptides:EDP)を気管支肺胞洗浄液中で定量し、喫煙との関係、酵素学的不均衡との関係を検討した。対象は中高年健常喫煙者、非喫煙者のボランティアと軽度の肺気腫患者42名で胸部CTにて気腫病変の有無を評価した。気管支肺胞洗浄(BAL)を施行し、その上清中のEDPをヒト肺エラスチンに対するpolyclonal抗体を用いてELISA法にて測定した。喫煙者では非喫煙者に比べBAL液中のEDP濃度が有意に高く(29.9±3.5SE vs 17.0±1.8ng/mg albumin,p<0.01)、喫煙暴露の客観的指標である血漿コチニン濃度ともに有意に相関していた(r=0.53,p<0.001)。またBAL液中のEDP濃度は好中球エラスターゼ・α1-アンチトリプシン複合体濃度や(r=0.38,p<0.05)合成基質(MAOSAAPVNA)に対する酵素活性と(r=0.65,p<0.001)有意に相関した。 BAL液中に存在する種々のエラスターゼの気腫化形成における相対的役割を検討するため好中球エラスターゼとシステインプロテアーゼであるカテプシンBとLをELISA法にて測定し、喫煙歴とCT上の気腫病変との関係を調べた。好中球エラスターゼは気腫病変を有する喫煙者では、非喫煙者に対してのみならず気腫病変のない喫煙者に比しても有意に高値を示した(0.52±0.10SE vs 0.23±0.07mg/mg albumin,p<0.01)。しかしカテプシンB、Lは喫煙、気腫病変との関係は見られなかった。
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