研究概要 |
骨粗鬆症の分子機構を理解するには,その骨形成及び骨吸収の基盤となる細胞である骨芽細胞並びに破骨細胞の分化制御に関わる機構を理解する必要がある.本研究の第一の成果としては,骨芽細胞における分化を制御する機構を特に転写因子の段階で明らかにした点である.即ち骨芽細胞の特異的な分化形質であるオステオカルシンの遺伝子の上流を解析することにより,その骨特異的な遺伝子発現制御を担う転写因子の存在を明らかにした.オステオカルシンの上流のプロモーター1キロベースについて,欠失変異を作成し,Helix-Loop-Helix型転写因子結合部位であるE-box1(OCE1)を同定し,Helix-Loop-Helix型転写因子がOCE1に結合する蛋白の1つであることを明らかとした.更に骨芽細胞にはその細胞分化のレベルと平行してその発現が上昇するHelix-Loop-Helixロイシンジッパー型転写因子ADD1が発現することを明らかにした.またHelix-Loop-Helix型転写因子で,なおかつ軟骨膜やストレロトームに強く発現の見られるスクレラキシスが骨芽細胞においても発現することを明らかにした.スクレラキシスはその機能が明らかでなかったが,骨芽細胞においてスクレラキシスを過剰発現させることにより,骨芽細胞から軟骨細胞様細胞への転分化が観察された.以上の如く骨芽細胞の分化形質が正の転写因子としてHelix-Loop-Helix型転写因子によって制御されることを初めて明らかにし得た.本研究の成果の第二の点としては,骨粗鬆症のもう一方の重要な側面である骨吸収の主体である破骨細胞の分化とその機能の制御に関する細胞生物学的側面を明らかにした点である.この点を解明する為に,破骨細胞の形成支持能を維持する細胞をSV40-largeT抗原を持つマウス骨髄から樹立した.この骨髄細胞由来のTM8細胞はマウスの脾臓細胞の破骨細胞前駆細胞群からビタミンDの存在下で非常に効率的に破骨細胞を誘導し得る活性を有している.これらの細胞の検討から破骨細胞の形成支持に有用な分子の情報が得られる系が確立した.以上のような研究成果は骨芽細胞並びに破骨細胞の両面から,これらの細胞の形成過程並びに細胞の分化過程の分子機構を明らかにしてものであり,これらの知見を基盤として両細胞の機能の平衡の破錠である骨粗鬆症に対する新しいアプローチを行う基盤を得ることができた.
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