研究概要 |
歯髄・歯周組織の加齢的変化を形態学的・機能学的に明らかにしようとする基礎的研究と,加齢に伴い発現頻度が増加すると考えられる難治性疼痛の歯科保存学的臨床的研究により,この疾患の解析を試みた.本年度の研究成果ならびに研究の進行状況は,以下の通りである.(1)形態学的研究:当初の目的では,歯髄および歯周組織の加齢に伴う形態学的変化を観察する予定であったが,研究対象とした新鮮抜去歯の入手が困難なため(既に入手済みの材料については,現在標本作成中である),動物実験により以下に記す成果を得た.ラット臼歯歯髄内免疫担当細胞の分布様式を免疫組織化学的手法により解析し,歯冠歯髄でマクロファージは生後24週まで,また形質細胞・リンパ球は生後14週まで増加するが,その後は生後1.5年までは分布に顕著な変動を示すことはなかった.(2)病態生理学的研究:本年度は歯髄神経の慢性刺激法を確立することを研究の第一目的とした.起炎性・疼痛性化学物質をラット臼歯歯髄に適用した際の咀嚼筋筋活動を静的筋電図(sEMG)を指標に観察し,化学物質を投与した臼歯と同側の咬筋を中心にsEMGの増大が生じることを見いだした.これは従来から報告されている開口反射とは異なり,歯髄神経の化学的慢性刺激が三叉神経系のシナプスの可塑的変化をもたらし,その結果として反射的に咀嚼筋静的筋活動を誘発したものと考えられる.第二目的の歯髄血流の観察では,Nd:YAG laserをネコ犬歯歯冠歯質を介して歯髄に照射した際の歯髄血流量は,歯冠部では変性に伴い減少するも,歯頚部より根尖に近い部分では著しく増加した.このことから歯髄全体が変性している可能性のある高齢者では,歯髄内血流量は極めて少ないことが推察された.(3)難治性疼痛患者の臨床疫学的研究は現在調査中であり,多数歯に渡り歯髄処置を受けた患者にこうした頭頚部の疼痛患者が多い傾向がつかめた.
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