研究概要 |
高齢者社会における歯科保存領域の問題は,口腔内に可及的に多数の歯を保存して機能させることにある.本研究では,歯髄・歯周組織の加齢に伴う老化について有機的に詳細な検討を行い,高齢者の歯髄・歯周組織の形態学的観察を行うとともに,実験動物を使用して歯髄・歯周組織の加齢的変化を,神経線維と歯髄血流の面から生理学的に追求した.こまでの研究の進展状況は以下の通りである. 1)形態学的研究では,動物実験により,加齢の進んだ動物の実験的に惹起された根尖部歯周組織病変における骨組織の破壊吸収が,若齢動物に比して著名に進行している傾向が認められた.この結果は,加齢に伴う生体防御能の低下と関係している可能性がある. 2)病態生理学的研究では、起炎性化学物質を歯髄に投与し,誘発される反射性咀嚼筋の筋活動の変異を生理学的に解析し,咀嚼筋の筋活動の増加を認めた.また,Nd:YAGレーザーを歯冠歯質を介して歯髄に照射した際の歯髄血流量は,歯冠部で減少,歯根部で増加した.歯髄全体が加齢的変化として変性している可能性のある高齢者の歯髄血流量は極めて少ないことが推察された。 3)難治性疼痛患者の臨床疫学的研究は現在進行中であるが,多数歯に渡り歯髄処置を受けた患者にこのような痛みを訴える患者が多い傾向がつかめた. 上述のような結果が得られたが,これは当初に計画した研究計画のほぼ70%の実績と考えられる.臨床疫学的研究において,研究対象となる臨床症状を持った患者数が少なかったことが原因して統計学的な有意性は得られなかったが,平成7年度に来院する患者に期待をつなぐものである.
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