研究概要 |
歯周疾患は宿主菌相互作用に不均衡がもたらされた結果として起こる病気だが、その発症・進行機序は未だ明らかではない。そのため、研究者らは、歯周炎罹患局所における免疫・生体防御ネットワーク機構の解明の一助とすべく、以下の研究を行った。まず、歯周疾患において重要な役割を果たしているとされているTh細胞の浸潤経路を明らかにするため、歯肉溝滲出液中リンパ球を3重染色を用いたレーザーフローサイトメトリーで解析するとともに同一患者の同一部位由来の歯肉の免疫組織化学染色の結果と対比した。その結果、滲出液中Th細胞はICAM-1陽性ポケット上皮、特にポケット底部由来のものによって構成されていることが判明した。免疫・生体防御機構において多形核白血球は防御反応の第一線を司る重要な集団であることから、歯周炎罹患者より採取したGCF中の好中球機能の活性酸素産生能を調べた。成人性歯周炎における主要病原細菌であるP.gingivalis検出部位由来の好中球では、活性酸素産生能が著しく低下しており、P.gingivalisが好中球の殺菌能に大きな支障をもたらしていることが判明した。他方、歯周病原菌由来蛋白で刺激した末梢血由来の分離好中球における低親和性IgG Fc受容体mRNAの発現を検索した結果、CD16,CD32が蛋白レベルで低下しているにも関わらず、mRNAは歯周病原菌由来蛋の濃度によってその発現が著しく変化することが明らかになった。さらに、歯周炎罹患部位由来のGCFに高比率の活性化好酸球及び高濃度のIgEとsCD23が含まれることを立証し、歯肉炎に罹患した患者のGCFと対比したところ、分泌型ECP陽性活性化好酸球、高濃度のIgEとsCD23を含む歯周炎患者のGCFは特異的であると考えられることが明らかにされた。現在においては、歯周炎罹患者由来歯肉を用い、In situ hybridization及びRNAsc Protection assayにてIL-1,IL-4,IL-5,IL-6のmRNAの検索を行っている。中間結果の多変量解析の結果、Th2細胞関連サイトカインと炎症性サイトカインの産生状況と病状との関わりが示唆されているが、現段階では更なる確認が必要であると思われ、目下追加実験中である。
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