胚発生の途上で起きる細胞分化の典型例として水晶体の分化をとりあげた。とくに、ニワトリのδ-クリスタリン遺伝子の発現制御機構を研究の中心に据えた。まず、δ-クリスタリン・エンハンサーのなかのDC5領域に結合する3種類の因子(δEF1、δEF2、δEF3)の作用が水晶体特異的なエンハンサー活性をもたらすことを結論した。 δEF2、δEF3は協同的に作用して水晶体特異的な遺伝子の転写活性化をもたらす。δEF2はSoxファミリーのなかのサブファミリーに対応することが明かになった。 δEF1は抑制因子としてδEF2、δEF3の作用を調節するとともに、水晶体以外でのδ-クリスタリンの発現を抑制している。δEF1の作用機構の解析やδEF1欠損突然変異マウスの作製によって、δEF1はさまざまな組織の分化過程に重要な役割を果たす因子であることも明かになった。 これらの因子が水晶体分化に果たす役割を明かにするために、Sey突然変異マウスの原因遺伝子であるPax-6の発現と、Soxの発現を比較検討した。その結果、頭部外胚葉に広く発現されるPax-6が水晶体への分化可能性を与え、次いで、おそらく眼胞からの誘導に応じて発現されるSoxがその領域の水晶体への分化を規定し、さらにδEF3をはじめとするいくつかの転写制御因子の発現がその領域にもたらされて水晶体分化が実現されると結論された。
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