皮膚感覚情報がヒトの脳でどのように処理されて知覚されているのかを、電位と磁場を計測し解析した。電位と磁場を計測し相互に比較検討することにより、電位信号の発生のメカニズムあるいは逆に磁場信号の発生源について明らかにするとができた。本研究の目的は皮膚感覚入力から末梢神経活動、中枢皮質応答を統一的に理解することにある。そのため定量的な皮膚刺激法を開発し、高速度カメラを用いてはじめて時空間的に高精度な皮膚の変化を捉えることができた。このような定量的刺激法を用いて誘発脳電位・磁場を計測するとともに、マグニチュード推定法により心理物理量を測定し刺激強度と皮質活動ならびに主観的感覚量の間にベキ関数を見出した。4年間の研究で得られた主な成果をまとめると以下のようになる。 1. 3点を独立に駆動し皮膚にair-puff刺激を与える刺激装置を開発した。 2. 3点を独立に駆動し皮膚に振動刺激を与える装置を開発し、振動周波数、強さ、持続時間を可変とすることにより周波数情報、強度情報に関する研究を可能とした。 3. air-puff刺激強度を6段階に基準化して皮膚表面に与えたときの皮膚の動きを高速度カメラを用いて可視化する事ができた。 4. 末梢神経活動の多点磁場計測により、動く4重極子(脱分極電流と再分極電流)の詳細な時間的空間的分布を可視化した。 5. 末梢神経障害と診断された症例について神経活動磁場を計測し、磁場の異常パターンからその病態について考察した。障害部位で磁界が消失するパターンの他に障害部位において極性の反転を伴い、信号強度の強弱を繰り返す特異的な磁場信号の振動現象を認めた。この振動現象の生理学的メカニズムについてはHodgikin-Huxleyの式を用いてシミュレーションと実験を行いNaコンダクタンスの増大が関係することを示した。 6. 皮質下活動が外部磁場計測により検出されるか否かはヒトの非侵襲的脳機能解明にとり重要であるが未だ結論は得られていない。この問題を実験的に検討するために4チャンネル高解像SQUID磁束計(micro SQUID)を用いて除皮質した子ブタの脳から体性感覚刺激に対する磁場応答の計測を行った。その結果視床及び視床下から大きな磁界信号が発生し、これを頭皮上から観測可能なことを明らかにした。 7. 体性感覚誘発磁場の1次応答N20mに重畳して記録される300-800Hzの高周波信号が視床皮質求心線維を受ける皮質4層に存在する抑制ニューロン活動を反映することを明らかにした。
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