本研究の目的は、電気生理学的および分子生物学的実験法により、海馬ニューロンのグルタミン酸受容体チャネルの機能的性質とサブユニット構成との関連を単一ニューロンレベルで明らかにすることであった。具体的にはラットの海馬ニューロンを対象として、ホールセルパッチクランプ法により受容体の電気生理学的特性を調べた後、細胞質を電極内に吸引し、細胞質のmRNAをDNAに逆転写(Reberse Transcription : RT)し、このDNAをPolymerase Chain Reaction(PCR)法によって増幅し、このPCR産物に大して制限酵素解析を行い、当該ニューロンのグルタミン酸受容体を構成するサブユニットの種類を同定する実験を行った。研究はグルタミン酸受容体チャネルのうちAMPA受容体を対象とした。培養海馬ニューロンには、外向き整流特性を示し、Ca^<2+>透過性をもたないAMPA受容体をもつI型ニュートンと内向き整流特性と高いCa^<2+>透過性を示すAMPA受容体をもつII型ニューロンが存在した。単一ニューロンRT-PCR法により、これらのニューロンのAMPA受容体のサブユニット構成を調べた。その結果、I型ニューロンでは常にGluR2サブユニットが発現しているのに対して、II型ニューロンではGlUR2は検出できず、このニューロンのAMPA受容体はGluR1およびGluR4からなることが明らかになった。即ち、単一ニューロンレベルで受容体の機能的性質の差異の分子的基盤を解明することに成功した。ついで、海馬切片の多種類のニューロンのAMPA受容体の電圧・電流特性とCa^<2+>透過性を系統的に調べ、それらのニューロンのAMPA受容体のサブユニット構成を単一ニューロンRT-PCR法により推定した。海馬切片のニューロンで得られた結果は基本的には培養ニューロンの結果に一致した。
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