研究概要 |
本年度は,主に日本海における過去20万年間の黄砂フラックスと生物生産性の記録を数百年の時間精度で解析するために,ODP797地点から再度採取された約200試料について,主要化学組成・有機炭素・炭酸塩炭素・生物源シリカの定量を行なった。そして,その結果をもとに,全岩主要化学組成から生物源シリカ量、炭酸塩起源Ca量を差し引き,Fe,Mn,Pなど初期続成過程で移動する元素を除くことにより求めた砕屑物起源物質の元素組成についてQ-mode因子分析を行なった。その結果,3つの因子を抽出することが出来た。第一因子は,黄砂に,第二因子は日本列島起源の陸源砕屑物に,第三因子は火山ガラス起源砕屑物に対応する。更に,第三因子の寄与の大きい8試料を取り除き,残りの試料について再びQ-mode因子分析を行いその解に斜交回転を施すことにより,端成分の組成を求め,各試料について砕屑物中の黄砂起源物質の割合(Kosa fraction)を算出した。797地点においては,過去200万年間の砕屑物中のKosa fractionは,およそ15%から70%の間で変動し,氷期に高く間氷期に低い傾向がある。それに加えてKosa fractionが,数千年のタイムスケールで大きく変動していることが,今回明らかになった。更に,生物源シリカ量および有機炭素量と,Kosa fractionの間の関係を調べたところ,珪藻含有量および有機炭素量が高い時には,Kosa fractionが低い傾向が明瞭に認められた。また,同じ試料について珪藻化石の群衆組成を調べたところ,珪藻含有量および有機炭素量の多い試料では,珪藻の個体数も多く,特に対馬暖流起源もしくは東シナ海沿岸水起源の種が多くなる傾向が明瞭に見られた。これらの観察事実から,日本海堆積物中のKosa fractionが変動する理由として,a)黄砂フラックスが数千年のタイムスケールで変動していた,b)日本列島起源の陸源砕屑物フラックスが数千年のタイムスケールで変動していた,の2つが考えられるが,珪藻化石の産出の増加が,Kosa fractionの減少に先立つ傾向があることからb)の可能性が高い。
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