研究分担者 |
田近 英一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (70251410)
荻原 成騎 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (50214044)
中嶋 悟 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教授 (80237255)
小泉 格 北海道大学, 大学院・理学研究科, 教授 (20029721)
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研究概要 |
本年度は主に,前年度までに出された分析結果のより詳細な検討を行なった。前年度にODP797地点において得られた砕屑物中の黄砂寄与率の数千年スケールの変動の原因を究明するために,797地点における過去20万年間のより詳細な年代モデルの構築を行なった。その為に797地点の数層準から火山灰試料を採取・分析し,広域火山灰AT,Aso-4,Toyaを新たに認定した。また,周辺の地点で得られたAMS年代を797地点に対比することにより,新たに年代基準面を設定した。こうして構築された年代モデルを基に,黄砂寄与率の変動パターンを最近GRIPおよびGISPIIにより報告されたグリーンランド中央部の氷床コアの酸素同位体比変動パターンと比較したところ,両者は驚くほど良く一致した。グリーンランドの氷床コアに刻まれた数百年〜数千年周期の酸素同位体比変動はDansgaard-Oeschger[D-O]Cycleと呼ばれ,人類の文明の盛衰にも影響を及ぼし得る急激かつ大規模な環境変動と考えられている。そして,現在それがどの程度広域に起こっていたのかを明らかにすることが,気候変動研究の一つの焦点となっている。今回の我々の発見は,D-O Cycleの影響が日本周辺にまで及んでいた点を明らかにした点で極めて重要である。更に詳しい検討の結果,黄砂寄与率が低下した時期は,珪藻化石から東シナ海沿岸水の日本海への流入が顕著になった事が示される時期と良く一致する事も示された。東シナ海沿岸水の影響の増大は,黄河・揚子江の河川流出量の増大とアジア大陸内陸部の湿潤化を暗示する。一方,黄砂寄与率の減少も後背値の湿潤化を示唆する。従って,797地点の黄砂寄与率の変動に現れたD-O Cycleは,数百年から数千年周期での急激なアジア大陸内部での乾燥化-湿潤化の繰返しを意味すると考えられる。この点を更に詳しく調べるために,新たに採取されたピストンコア試料について分析を行ない,現在その結果を解析中である。
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