本研究では、古文書・古記録等が全くあるいはほとんど残されていない遠い古代にどのような社会構造が作り上げられていたのかを、従来の状況証拠からの類推ではなく、近年のDNAテクノロジーの発展を生かして平成2年度から4年度における文部省科学研究費補助金にて実施した試験研究Aにより開発したDNAテクノロジーによって自然科学の基盤に基づく古代社会構造の解明を推進することを目指している。特に、人類集団の移動・交流などの観点、さらには日本人社会の構成に関連していることから、対象は弥生時代遺跡とした。 本年度の具体的研究としては、北部九州に位置する弥生時代のある遺跡より出土した古人骨の個体間の遺伝的関係に主眼を置いたDNA分析をおこなった。申請した計画に従い、本年度はこの遺跡より出土し、利用可能な古人骨すべてからDNAを抽出することに重点を置き、さらに、今後の遺伝子分析の際におこなうPCR法によるDNA増幅のテンプレートDNAとしてもちいることができる段階にまで精製を進めた。 そして、これら精製DNAをもちいてミトコンドリアDNAのDループ領域のうち2つの領域をPCR法によりDNA増幅し、これらPCR産物をポリアクリルアミド・ゲル電気泳動法によって精製の後、ダイレクト・シークエンシング法により一次構造(塩基配列)を決定した。そして、これら塩基配列データをもちいた数理分析から、この遺跡集団は現代日本人集団の祖先型を示すものの、2つの遺伝的に異なったサブグループから構成されている可能性が強く示唆された。このことはDNAテクノロジーが古代社会構造の解明に非常に強力な武器であることの証左であり、本研究計画の妥当性を高く評価できるものといえる。
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