研究概要 |
北部九州・弥生時代の遺跡である詫田西分遺跡では2つの埋葬様式がもちいられている。すなわち,出土した古人骨112個体のうち37個体は甕棺をもちいて,75個体は直に土葬する土壙墓の形態で埋葬されていた。これらの古人骨のうちDNA分析を実施できた個体は35個体(甕棺墓9個体,土壙墓26個体),うち26個体(甕棺墓9個体,土壙墓17個体)に関してミトコンドリアDNAのDループと呼ばれる領域のDNA分析に成功した。PCR法にて増幅した各古人骨DNAについて決定したミトコンドリアDNA塩基配列に基づいて,最大節約法をもちいて系統樹を描いた(樹形は近隣結合法をもちいても同じものが得られる)。得られた系統樹のなかで、最も多くの個体が共有していた塩基配列を基準に、そして、埋葬様式(甕棺墓か土壙墓か)を基準に、2x2クロス集計表を作成し,葬制と遺伝的関係に相関があるか否かをフィッシャーの直接確率計算法にて検定した。その結果,危険率5%(p=0.028)で有意な差があると判定された。 以上のDNA分析の結果,次のような可能性が示された。もし甕棺墓と土壙墓が同時期に存在した場合,遺伝的関係を考慮して人々は埋葬されたであろう。一方,甕棺墓と土壙墓がもちいられたのが別の時期であった場合,遺跡(古代社会)を構成した人々(の遺伝的構成)が時代によって異なることを示している。前者の場合には,詫田西分という一つの集団が異なる遺伝的構成と文化様式(葬制)をもった2つの分集団から成立していたこと,すなわち2つの社会階層への分化が生じていた可能性を示し,後者の場合には,詫田西分という古代社会へある時期に異なる文化と遺伝的構成をもった人々が流入した可能性を示している。
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