本研究の主要課題である裏彩色の技法を考察する上で極めて重要な資料である聖衆来迎寺伝来の十六羅漢図(東京国立博物館蔵)の修理時に記録された写真、文書等の資料の整理を実施した。すなわち修理時に記録された写真資料、(1)修理前、修理中、修理後の本紙全図の4×5インチサイズのカラーフィルム、(2)同白黒写真、(3)同赤外線写真、(4)修理前の本紙全図、10分割図、45°光による12分割図、詳細部分図の35ミリカラースライド、(5)修理中の伏裏除去前の全図、伏裏除去後の全図、12分割図、濡裏全図、濡裏12分割図、裏彩色部分図の35ミリカラースライド、(6)修理後の全図、12分割図の35ミリカラースライド、(7)修理前、修理中、修理後の顕微鏡写真の35ミリカラースライド(8)修理前のX線10分割焼付写真などである。これらは原資料の保全をはかるため必要に応じて副本を作成した。 また、資料整理と並行して聖衆来迎寺伝来十六羅漢図について実作品として照合しながら、その彩色法の問題を中心に分析考察する研究会を実施した。その結果、聖衆来迎寺伝来の十六羅漢図に用いられている顔料についての基本的な認識をもつに至った。また、裏彩色について今回の修理時の資料から明かになったことは聖衆来迎寺伝来の十六羅漢図の裏彩色が当初予想していたよりも顔料がかなり薄く施されているのではないかということである。しかし、それが本来そうであったのか、あるいは前回修理時に一部剥落した結果によるものであるのかは、なお今後研究を要する問題であり次年度の課題となった。 このほか平成5年秋の東京国立博物館特別展「やまと絵」に出品された作品をはじめ、本研究と関連する作品の彩色に関する調査を各人の研究分担にしたがって実施した。それらの資料は今後の東洋古代絵画の彩色法に関する研究会において聖衆来迎寺伝来の十六羅漢図の資料と比較して、より精細に研究される予定である。
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