1.前年度に引き続き、本研究の主要課題である裏彩色の技法を考察する上で極めて重要な資料である「聖衆来迎寺伝来十六羅漢図」(16幅、東京国立博物館蔵)の修理時の資料整理を実施し、これを完了した。修理の各段階で記録された画絹表裏の写真資料のうち、4×5インチサイズのカラーポジフィルムおよび35ミリカラースライドなどは原資料の保全をはかるため必要に応じて副本を作成した。 2.資料整理と並行して「聖衆来迎寺伝来十六羅漢図」について実作品と照合しながら、その彩色法の問題を中心に分析考察する研究会を実施し、美術史のみならず、保存科学、保存修復の研究者からも意見を聴取した。 3.修理中の「山水屏風」(神護寺蔵)を実査し、この作品にも裏彩色が効果的に用いられていることを確認した。このほか、本研究に関連する作品の彩色に関する調査を各人の研究分担にしたがって実施した。 4.各研究機関等に保管される古代絵画の彩色法に関する資料(「阿弥陀浄土図」)知恩院蔵、他)を収集し、これを整理して比較検討した。 5.以上のような調査、資料収集、および比較研究などにより、「聖衆来迎寺伝来十六羅漢図」み用いられている顔料についての基本的な認識をもつに至った。また、日本の他の作品、および中国あるいは朝鮮の遺品と比較して、「聖衆来迎寺伝来十六羅漢図」の裏彩色はとりわけ入念に施されたものであること、16幅のなかで多少の精粗があり、第八尊者と第九尊者の2幅にもっとも精密な裏彩色が見られることなどが今回の修理時の資料から明かとなった。 6.研究の成果をまとめ、「聖衆来迎寺伝来十六羅漢図に関する報告書」公刊のための基礎的作業を完了した。
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